Novel

04.新学期


十数分後どこかのクラスからバシーンと言ったらいいのかガシャンと言ったらいいのか、とにかく大きな音が聞こえて教室中がざわめいた。
どこのクラス?誰かぶつかった?なに?
教室のある男子生徒が真相を確かめようと席を立つ。
丁度その時前方のドアがスライドされ、担任の先生が入室してきた。
「きみ、HRを始めるよ。席につきなさい」
去年蘇緒くんのクラスを受け持っていた古典のおじいちゃん先生。
よくお手伝いしているからどんな人なのかよくわかる。
物腰柔らかな老紳士って感じ。
教壇の上に立ち教室を一望すると、癖のある字で黒板に名前を書き自己紹介を始めた。
「やあ、おはよう。今日からこのクラスを受け持つー」
壇上の先生の前にクラスメイトたちは先ほどのざわめきなど無かったかのようにしん、と静まり返っている。
優秀優秀、満足そうな笑みをたたえながら先生はもう一度教室をぐるりと見回した。
「自己紹介をしてもらう前に諸君らの新しい学友を紹介しよう。入ってきなさい」


「失礼します」とドアをスライドさせて入ってきた人物は一目見ただけじゃ女性か、男性か判別出来なかった。
ただブレザーのしたから伸びるスラックスが確認されたので男性なんだろう。
自分で言うのもアレだけど、華奢な草食系男子って感じ。
彼は自分よりうんと背が低かった。
淡いベージュの髪の毛を前髪まで伸ばしている。後ろ髪はそんなに長くない。校則は大丈夫なんだろうか。加えて、ネイビーのスクエア眼鏡でさらに顔が隠れているから表情はよく見えなかった。
「自己紹介」
「市ノ瀬紳と言います。母の仕事の関係で転校してきました。至らぬ点は多々ありますが、御教授賜りたく思います」
テンプレートにしては硬すぎる自己紹介を終えた転校生はまた俯く。
「市ノ瀬の席は前から5番目、ええと転校生係も決めなくてはね。席も近いし、目立つし…谷、案内してあげなさい」
「ヘァッ?!」
突然の指名に変な声をあげてしまった。
コミュ障な僕には荷が重すぎます先生!
そういうのはコミュニケーション能力の塊みたいな…蘇緒くんにやらせればいいじゃないですか!
視線による無言の訴えもむなしく、話題は今日の流れに移った。
先生がこうなってしまえば何をしても無駄なのもよくわかっていた。


黙って席につく転校生を横目にどうやって声をかけるか思案する。
やっぱり表情はわからない。
怖い人じゃないと思うけど、嫌われたら嫌だな。
あ、もしかしたら友達になれるかも知れないな。
「えっと…市ノ瀬くん、よろしくね」
淡い期待を込めて話しかけた右隣。
しかし、
「ありがとう。だけど、私に構わなくて結構だよ。…好きに学園生活を謳歌してくれたまえ」
髪の毛の隙間から見えた口元こそ和やかな笑みを浮かべていたが、その口調は実に冷ややかなものだった。

…先生、心が折れそうです。


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